広島の「メリさん家(ち)」

広島の「メリさん家(ち)」という店を聞いたことがありますか?
県の鳥井原さんと「今度飲みましょう」ということになり、木曜日の夜に経済産業局の森元さんに連れてって頂いたお店です。ひょんなキッカケからもう10年も通っているとのことですが、メチャクチャ素敵な(?)お店だったのでご紹介します。
 
長いので時間がある方だけ読んでください。(笑)
 
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「メリさんの家」は一見するとただの小汚い(?)中華料理屋さん。店も探さないと分からないような変な場所にあります。名物ママ「メリさん」が一人で切り盛りしているお店です。
メリさんは中国人二世で豪快、そして口が悪い(笑)。
とにかくこの店、とてつもなく常識外れ・桁外れ。
 
まず中華料理屋なのにメニューすらない。
注文さえ聞かれない。出るものはママの気分次第。
お客さんはメリーさんが出すものを有難く頂くしかない訳です。
最近まで中華料理屋の定番であるラーメンさえなくて、4年前にやっと「復活」したそうです。
いつで出てくるかも気分次第なので、急いでいる人は「入店お断り」。(笑)
 
そしてお酒は、テーブルの上にドーンと並んでいる「ぬるい」青島ビール
これをお客さんは勝手に取ってきて、勝手に栓を抜いて飲む訳です。
紹興酒も同じ、瓶を自分で取ってきて勝手に飲む。
コップもバラバラで古く、所々欠けたりもしている。
メニューもないので、お会計もたぶん適当。(笑) (でも良心的な値段です)
鳥井原さんが先に店に着いた時、お客さんは誰もいなくて、メリさんはテーブルに突っ伏して寝ていたそうです。…で、顔に腕の跡が付いたままムックリ起き上がり、一言。
 

「….お前は誰だ? 」
 
ん?….なんで、店に入るのに人定尋問があるんだ?? 
 
ひるみながらも「森元さんの知り合いだ」と懸命に説明して 、やっと店に入れてもらったそうです。
(その後から来たお客さんもやはり「お前は誰だ?」と聞かれてて、一生懸命に説明してました)
 
気に入らないお客さんは、「帰れー!!」とすぐ追い返されるそうです。「冷えたビールを出せ!」なんて言ったら、間違いなく叩き出されます。(笑)
 
この店、全てがこの調子です。
 
こんなこと書いてると「こんな店のどこがいいんだ?」と不思議ですよね?
私自身も料理をしますし、食べるのも大好きでいろんな所にも行きましたが、それでも他に無い位に素敵なお店だったんです。
 
最初に「これ食え!」と出してもらった料理が「甘エビを生姜で茹でたもの」。
生姜以外、一切入ってない。でも、それがメチャクチャ旨いんです。
塩さえ入っていないはずなのに、エビ本来が持っている塩味が出て良い塩梅(あんばい)になってる。
湯で加減も絶妙、エビは茹で過ぎると固くなるのですが、ふっくらしているのに火は通ってて、皮ごとバリバリ食べられる。
甘エビというと刺身ばかりで茹でたの食べたの初めてですが、こんな旨いと思わなかった。
特にミソは最高~。鳥井原さんにご教授頂いて、ミソだけ味わってみたら絶品でした。
生姜を入れるのは、エビカニ類が持っている生臭味を消すためとのことで….なるほど理に叶ってる。
でもこんな芸当ができるのは、素材が新鮮で「本物」だからです。
 
次に出てきたのが「塩ゆで卵」。やはり「これ、旨いから食ってろ」と。(笑)
何のことは無い、ただのゆで卵です。自分で殻を剥いて食べる。
塩味だけ、ただこれもメチャクチャ旨い。
黄身は半熟(7分)という絶妙な湯で加減も去ることながら、あるようなないような塩加減。
でもちゃんと味になってて、卵本来が持つ甘さが見事に引き出されてました。
作り方は聞いていませんが、たぶん下拵えとして塩水に漬け込んでいるのだと思います。
塩の濃さ、漬け込む時間、湯で加減、卵の選び方など、素人ではとてもこうは行きません
ひとつお土産にもらって次の日に食べてみましたが、やっぱり旨かった。
 
シンプルな料理だからこそ、調味料とかで誤魔化しが効かない。
素材の良さと料理人の腕がストレートに出る。
次は、「キュウリの漬物」
醤油っぽい味の浅漬けで、キュウリとクコの実だけのシンプルなもの。
ただこれもシンブルなのに味がすごく深い。恐ろしくウマいのです。
この漬物のファンという人もいて、これを食べるために遠くからオジサンもいるそうだ。
漢方の考え方だとキュウリは体を冷やすそうで、そのために体を温めるクコの実を一緒に使っているそらしい。そんな所にまでお客さんのことを想って作っているんだなぁ….と感心しました。
 
とにかく出てくるものは何を食っても旨い。
 
春巻きとか、水餃子とか、竹の子の炒め物、鶏とカシューナッツの炒め物とか、ラーメンとか、ごく普通の料理ばかり。特別な材料も使ってない。
でも食べ慣れているから違いが分かる、初めて経験する旨さの連続
酔いも手伝って途中で頭がおかしくなって、ただただ笑っちゃいました。
 
メリさん曰く、これが本当の中華で「本物の中国を出したい」という。
例えば餃子は中国といえば「水餃子」。焼き餃子は残り物を食べる感じが強いそうです。
日本では水餃子というスープに入っているものが多いけど、本物は茹でただけでスープ無し。
メリさんによるとあれは「ワンタン」だそうだ。
誰かが「餃子とワンタンって違うの?」って尋ねたら、「バカヤロー」と怒られてワンタンを茹でてわざわざ出してくれました。大きさも皮の感じも味も、これは確かに違う。
 
そしてファンから絶大な人気を誇る「ラーメン」
醤油と麺、具はネギをだけ。シンプルなのに、ちょっと言葉では表現できない位にものすごくウマイっ!
鶏ガラがベースだそうで、薄いしょうゆ味で透き通ったスープ。
雑味というものが一切無い。コンソメに近い感じで、味は繊細極まりない。
熱いスープの中に浮かんだネギの香り、パァーっと爽やかなに立ち上る。
僕はどちらかというと太くて腰のある麺が好きなのですが、このスープには細くて柔らかい麺がよく合う。
 
僕はラーメン大好きでいろいろ行きましたが、この時はあまりの旨さに黙り込んでしまいました。
どんな材料で、どれだけの時間を使って、どれだけ神経を使ったら、こんなに澄んだ味になるのか….。
ちょっと想像すると怖くなった。「料理は気が抜けない」というメリさんの凄みが伝わってきます。
 
聞いてみると、以前ラーメンを止めたのは、出さなくなったのではなく「出せなくなった」のだそうです。ラーメンを作るためには大きな寸胴でスープを取らなきゃいけないため、腰を痛めて鍋が持てなくなったためらしい。ようやく腰も良くなって復活したとのことですが、こんな話からも仕込みの大変さが伝わってきます。
先ほど「メニューが無い」と書きましたが、この店ではそもそもメニューは要らないのかも。
御メガネに叶う材料があるかで料理は変わるし、何を食べても旨いんだから。
 
ちなみにこの店、客席に調味料というものが無い。後から味を付けるなんて「料理人に対して失礼だ」という。
実際、水餃子は味がちゃんと付いていて、そのまま食べてもすごく美味しかった。
これに醤油だのラー油だの付けたら味が台無しなってしまう、という気持ちはわかります。
 
本当のプロが心を尽くした料理は素人がもはや手を加える余地はないし、その時期に最高のものを最高の調理方法で食べようとすれば、お客さんは選ぶ余地さえない。結局は出されたものを黙って食べるのが一番いいということです。
そんな自信と腕と持った店はなかなかありませんが、その数少ないお店だと思います。
 
メリさん家はお酒も最高です。
 
青島ビールは以前も飲んだことはありましたが、正直「不味いなぁ…」と思ってました。
今回はさらに「ぬるい」ということで最初は抵抗ありました。しかし飲んでみるとこれが美味いっ。
僕はビールはあまり好きではないのですが、結局3本も飲んでしまいました。
飲み物としてビールを旨い、と思ったのはこれが初めてです。
メリさんの話を聞いて納得したのですが、青島ビールは常温だと自然な甘さが出るけど、冷やしてしまうと台無しになるんですって。
それと漢方的にはビールは体を冷やすし、その上で冷えたものを飲むと大腸ガンになりやすい。
常温の青島ビールを出すのはそれが一番美味しい飲み方であるのと同時に、お客さんへの心配りでもあるのです。
 
紹興酒も聞けば15年物で、ここでしか飲めないものだそうです。
どちらかというと好きな方ではないのですが、結局は一人で一瓶飲んじゃいました。
見た目はごく普通のもので、まろやかで本当に飲みやすい。
紹興酒に氷砂糖を入れて飲んでいるのを見かけますが、これを一度飲めば「あり得ない」と思ってしまう。日本にある普通の紹興酒っていかにインチキか分かります。
 
これを無造作に積んである、江戸時代とか骨董の器で飲む訳です。
何でも昔の器の土は生きているそうで、ワインなどを入れると汗をかくそうです。
古いものでも少し欠けていたりすると数千円程度だそうで、それを上手に探して買って来るそうです。
例え欠けていても良いものであることは変わらない。
良いものは洗う時も大切に扱うから壊さないし、普段から使えば手が慣れてくる。
無駄な力が入らなくなるから壊さなくなるし、そうすれば器を生かすことになる。
良いものは使ってこそ生きる、というのが昔からの中国の知恵だそうです。
 
理屈はともかく、こんなに美味しく飲んだのは何年か振りなのは確かです。
料理やお酒の旨さもありますが、何よりの「つまみ」はメリさんのお話
料理のことや中国のこと、好きな骨董の話や有名人との交流、恋愛まで話題は広い。
知らないお客さんでも、メリさんを中心にすぐ打ち解けてしまう。
 
こんなメリさんの人柄を慕って、有名人のファンも多いらしい。
王監督や松井選手、椎名誠などいろんな人が訪れるそうで、尋常ではない(?)ゆかりの品が並ぶ。
 
松井が1ケース持ってきたという「松井印」のお茶缶に、人間国宝にサインさせたもの。(笑)
わざわざ通し番号指定(?)で松井に持ってこさせたサインバット。
王貞治と松井と大豊のサインが並ぶ怪しい(?)人形。
王監督のサインボールの裏に書かれたアントニオ猪木のサイン。
気難しいと言われる椎名誠に、椅子に登らせて天井に書かせたイラストとサイン。
暑がりの松井が「俺がカネ出すから、頼むから付けて」と設置した業務用クーラーまであります。
.….一言で言えばムチャクチャ。
通り一遍では無いメリさんとの交流がわかります。
 
メリさんは「この店は広島の田舎モンは相手にしない」と言う。
僕も田舎者で偉そうなことは言えないけど….確かに客を選ばざるを得ない店だと思う。
本物を見抜く目とそれなりの経験がない人には、この店の良さは理解し難いと思う。
 
なんでこんな「わかりにくい店」を敢えて広島に作ったのか? 不思議でしょうがない。
 
「ほら、原爆とか戦災があったじゃない。だから広島を少しでも良くしたいんだよね。」
メリさんはそう言ってたけど、たぶん本気でそう思っているんだろう。
「広島に手厳しい」という声もあるとのことですが、これは愛情の裏返し。
 ストレートか逆説的かという表現方法の違いだけ。
 
今の世の中、形だけの「…..のようなもの」が本当に多い。
ゴテゴテと手の込んだ味付け、或いは見た目だけの料理、ステレオタイプの常識や流行。
特に今みたいな時代は、誰でも理解できる「わかりやすさ」が好まれる。
ある意味、仕方ないのかもしれない。….世の中どんどん「バカ」になってるんだから。
 
でもそんな軽薄さをあざ笑うかのように、メリさんは本物をストレートにぶつける。
本物は素材もそうだけど、料理の腕も、心も、誤魔化しが効かない。
その味はどれも繊細で優しく、そして迎える人への愛情が伝わってくる。
どれだけ真剣に材料を選んだか、どれだけ念入りに下準備をしたか、どれだけ神経を使って料理を作ったか。料理は正直で、言葉以上にそういう心映えが食べる人に伝わります。
どんなに口が悪かろうが、一口料理を食べればメリーさんの繊細さがわかるはず。
こんな料理、大雑把で思いやりの無い人には絶対に作れない。….断言できます。
一人で切り盛りするメリさんが、その日のお客さんを思い浮かべながら下拵えをする姿が目に浮かぶ。これだけの料理の準備をしているのですから、クタクタになって開店前に寝ていたのも頷けます。
 
「久々に里帰りする息子を待つ母親の料理」
毎日食べられるシンプルでありふれている料理だけど、食べる人を想う心が伝わってくる。
メリーさんの料理ってそんな料理です。
 
 
一見豪快で毒舌に思える話も、よく聞けば相手への気配りが溢れています。
あまりに正直過ぎて心無い人には誤解もされやすいだろうけど….そんなメリさんの分かりにくくて(?)深い優しさが、一人でも多くの方に伝わるように解説(?)を兼ねて、紹介してみました。
 
 
これを読んで「ぜひに行ってみたい」という方はぜひ探してみてください。
場所は広島全日空ホテルの近くです。
個人的にメール(info@aquabit.co.jp)を送って頂いだければ詳しい場所をお教えします。
 
メリさんは基本的にお客さんは歓迎らしいんですけど、普通の店とは違うので心して行って下さい。
心を砕いている料理をわかってくれるお客さんだけでいいと、この店はお客さんを選びます。
急いでいる人や子供づれ、モノの見方が分からない田舎モン(?)はたぶん追い返されます。(笑)
 
ここは「メリさん家(ち)」という、ひとつの完結された世界です。
中には文句言って帰っちゃう人もいるらしいですが、それは料理屋さんと勘違い(?)して来たお客さんが悪い。(笑) 外から手を加える余地など一切なく、お客さんは素直に受け入れるかどうかだけ。文句を言う方が間違ってますよ。(笑)
ここは料理と話(とお酒)が一体となった「劇場」であり、実際に料理も食べられる「体験型エンターティメント」だと思えば理解しやすいかも。
 
ただ必要以上に恐れることはないです。
分かればこんなに楽しくて、美味しい店はありません。中華料理の腕は間違いなく広島で一番。
最初は「…お前、誰だ?」と睨まれると思いますが、そこで決してひるまないでください。(笑)
 
僕もお客さんと認めてもらえるよう頑張ります。
PS:
 
数ある人気メニューのひとつが「カレー」だそうです。(….何度も言いますが、ここ中華屋さんですが。)
僕はまだ食べてませんが、ここのカレーは普通とは全然違ってて、話によると大根(!?)やらゴボウ(!)やら、レンコン(!!)やらが入ってるらしい。
スープカレーみたいなものらしいのですが、お客さんはとにかく「美味しい」という。
何でもパーティの時には、カレー鍋を抱えて離さないお客さんもいるそうです。
 
お腹一杯で今回は頂いてませんが、肉まんも広島一という評判で、忘れられなくなるそうだ。
ザーサイもうまかったなぁ…。あとピータンも。また食いたいなぁ….。
 
行く時は前日に電話して予約して置いた方がよいとのこと。
なぜって? 理由はここで説明したとおりです。 
 
ちなみにブログで書くことはメリさんの許可を頂いてますのでご心配なく。(笑)
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