TSLに見る稚拙なプランニング

 
最近はいつにも増して忙しく、なかなかブログが更新できない。
いろいろな方からも「ブログ見たよ」と言われるのですが….
書きたいことは山ほどあるのに、ホントに書く時間無いのです…。ごめんなさい。
 
 
ちょっと前のネタだけど、「超高速テクノスーパーライナー(TSL)」ってご存知?
東京-小笠原間に就航予定だったカッコイイ高速船です。25億円もの研究費を注ぎ込んだ最新鋭のガスタービンエンジンを搭載し、狂ったように燃料を食うそうだ。
 
小笠原は本土から1000kmも離れた"亜熱帯の東京"。
飛行場も無く、唯一の交通手段は定期船「おがさわら丸」。片道26時間かかる。
TSLができるとこれが17時間と大幅に短縮される。まさに夢の船である。
これらの船を運航するのが「小笠原海運」という会社である。
 
ところが原油の値上がりで「採算が取れない…。」.と、この会社がTSLの受け取りを拒否したからさぁ大変。改めて試算してみたら、なんと年間20億円の赤字と言うじゃないですか??
船を作った国策会社との間で現在も係争中…..と、お粗末な話になっている。
 
 
……ちょっと待て。
検証のため改めて試算してみよう。
 
「国策」の名の下に、TSLには国が115億円も巨費をつぎ込んだ
年8.5億円で18年間のリース契約を結んで建設費を償却する、というプランだったそうだ。
8.5億円×18年=153億円。ここだけ見れば金利を考るとまぁ妥当な線だろう。
 
一方売上は往復45,000円/一人。年間4万人の見込みらしい。全員大人/割引なしの単純計算で年間売上は18億円
 
片道17時間で週2往復ということなので年間では104往復。定員は740名なので104往復でmax7.7万人。4万人ということは稼働率で52%。一往復あたり平均384名ということになる。
 
燃料費は2倍に上がって往復2000万円になった、ということなので、元々は1000万円/往復で計算していたのだろう。燃料費は2000万円なら年間21億円、半分の1000万円なら12億円だ。
 

元々の状態で年8億円のマイナスを見込んでいたらしいので、人件費などその他もろもろの経費があと5.5億円掛かる、という計算になる。
 
…….ん!? 
 
売上が18億円以下しかないのに、燃料費で元々12億円?
それにリース料(8.5億円)加えたら売上を超える。
 
まして燃料費が21億円に跳ね上がったらそれだけで売上超えちゃうよ…。
…ってことは、最初から全然採算あってないじゃないかー。
20億円の赤字っていうから、売上は数百億円規模だと思ってた。
それで売上の数字はニュースでは言わなかったんだな。….姑息な。
 
 
分かりやすく1往復あたりに直すと….
1往復の売上が約1700万円。それに対して元々赤字800万円を見込んでいたのが分かる。
原油が+1000万円近くなったので毎回1,800万円赤字だ。
….ええっ? 一往復で売上1700万円で赤字が1800万円?  こんな馬鹿な話は無いだろ。
確かに年間だと赤字は約20億円。だからやーめた、という話になるのも納得。
 
仮にキャパ限界の7.7万人が4.5万円の正規料金で乗ったとしても、売上は26億円。
経費は燃料代で20.5億円+リース料8.5億円、その他経費で5.5億円=34.5億円。
……どうやったって永遠に採算は取れない。
 
限られた情報でどこまで合ってるか分からないけど、まぁ概ねこんな感じだろう。
 
 
…..誰だ! こんなふざけたプランを作ったヤツは !!!
 
そもそも「世界は人口爆発」とか言われてるのに、燃料費が今の水準のままなんて前提は正気の沙汰ではないっ。
ジョーシキで考えたって、売上はわずか18億円もないのに、115億円もの建造費や、安く見積もって年間12億円の燃料費が賄えるわきゃ無いだろうっ??
 
現状でも20%の割引プランがあったり、子供がいたり、販売手数料分を考えなきゃならないので、実際の売上は良くて15億円位だろう。(貨物とかプラスαはあるだろうけど。)
売上15億円-(8.5億円+12億円+5.5億円)=11億円の赤字。
これがずさんな計画の実態で、さらに燃料費で9億円増えれば20億円の赤字は確実。
 
ビジネスプランナーとしてはこういうプランを見ると、ホントに腹が立つ。
だったら最初からやるなよ、作っちゃってから言うなよ、と言いたくなる。 
 
 
東京-小笠原路線というのはもともと黒字だったらしい。
TSLは原油価格が上がる前から年間8億円もの赤字が見込まれていたこともあって、小笠原海運は元々乗り気ではなかったらしい
ところが小笠原村の要望でやらざるを得なくなり、国と都に支援の覚書まで交わしていたそうだ。
 
…..にもかかわらずですよ。
 
 
「犯罪」ですよ。….これは。
 
 
要は長期に渡る巨額な負債になることを知りながら、確信犯としてやっているのだ。
どうやったって黒字にはならないんだから、この船を就航すれば未来永劫に赤字は続く
 
 
そもそも研究開発の段階で、コスト意識という概念が無いのが間違いの始まり
 
科学技術振興の大儀名分で湯水のように予算を注ぎ込む。
そりゃ研究者は喜ぶさ。彼らにはビジネスとか採算性なんて概念は無いから、学会でいい発表することだけを夢見てひたすら最先端を追求する。
で、25億円も使っちゃったからなんとか実用化しないとマズイ….ってことで、またまた巨額な費用を掛けて船を作る。国が金出し最先端の船を作らせてくれるって言うんだもん。それゃ技術者は泣いて喜ぶさ。
 
で、いよいよ引くに引けなくなって、なんとかどこかで実際に使おうとする。
そこで「100億円」という現実に引き戻され、普通のビジネスは無理だと気づく。
….「じゃあ、補助金で穴埋めしますよ?」と安易に流れ、船会社に押し付ける。
それが将来重大な結果になるかもしれないのに、見なかったことにする。
 
どんなに学術的に優秀でも、採算が合わない技術には実用性などない。
100億円で740人乗り、しかもランニングコストがバカ高い船が、「実用性」があるかどうか…。
四則計算さえできれば企画の段階でわかるだろう?
基礎研究なら割り切ってやれ。
 
 
黒字路線を放棄させられ、こんな船を押し付けられた小笠原海運は本当に気の毒だ。
契約通りこの船を受け入れることになったら、皮肉な事に一番困るのは小笠原の人々だ。
 
速い船はそれゃ誰だって欲しいだろう。小笠原の人達の心情を理解すれば尚更だ。
でもそういうメリットの話ばかりじゃなくて、TSLを就航したら今の2倍以上に料金が上がるかもしれない、TSLにすると赤字になる。国も都も将来どこまで支援できるか保証は無い。最悪は小笠原海運が潰れるかもしれない。そしたら村の唯一の足が無くなる可能性もある、というようなリスクをちゃんと説明したのか? その2つが揃って正常な判断ができる。
 
別な見方をすれば、9時間縮めるために20年で400億円も使うお金があるなら、その半分でも村に直接投資した方が前向きなんじゃないですかね?
 
 
何人がハンコを押したのか知らんが、こんなバカちんなプランを誰も止められないのか?
素人目にもわかるこんな無謀なプロジェクトを承認した人間は、全員クビにすべきだ
「私はハンコを押しただけ。」というなら、チェック機能を果たせない「役立たず」。
税金の無駄だし、責任を取って即刻辞めるべきです。
 
 
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