テクノロジー・ブッシュはなぜ起こるか?

 
先日東洋大学での講義での回答について、ある友人から「ブログ読んだら、いい事書いてあった」と褒めて頂きました。
主管の先生から「(講義の中で)差し支えない範囲で披露したら?」とお言葉を頂きました。
 
「テクノロジー・ブッシュ」も研究開発の方からよく聞かれる質問で、私も大きな関心を持っています。
これも時間をかけた回答なので、参考になればと転載します。
 
 
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テクノロジー・ブッシュは程度の差はあれ、研究所を持つほとんどの企業で起こっている問題です。
現場を見ていると、研究室に篭りきりの「技術バカ」になってしまっているケースが多いことに本当に驚きます。
世の中の流れには見向きもせず、ただひたすら「研究」という世界に閉じ篭って物事を考えようとする。
そういう傾向は、皆さんが想像している以上に強いです。
 
ある事例ではカーナビに関する先端技術を、5年ほどかけて一生懸命作ってました。
で、お客様である自動車メーカーに持って行った所、「ああ、そういうのは3年前に終わっているよ」の一言で終わり。
この研究者が費やした何年かの時間、そして企業が費やしたお金はほとんど無駄になった、という実例もあります。
先端技術の事業化を支援していると、こういう例が山のようにあります。
 
それって「自分は仕事をした」という会社に対する言い訳じゃないの?
或いは単なる自己満足のための研究なんじゃないの?と思うもの。
 
「技術さえよければ後は瑣末なこと」。
特に大学などでは、研究者の浮世離れ、「独善性」を感じることが多いです。
 
価値観は人それぞれですが、研究者であれば自分の成果が「世の中の役に立つ」ことを誰でも願う。
しかし、客観的にみればどう頑張っても最初から可能性の無いものもあります。
何のためにやっているのか?自分でさえ分かれなければ、研究のモチベーションがあがらないのも当然です。
 
私自身は、研究者こそ世の中の動きに最も敏感であるべきだ、と思っています。
研究開発は常に3年から5年、あるいは10年という先を見て考える。
だからトレンドを読むことも研究者にとって大事な仕事だと思っています。
研究者が作らない限り、新しいものは世の中には出てこないのですから。
 
ただ現状では技術者・研究者が常にマーケティング情報に接する仕組みがある会社は少ない。
また研究者自身もマーケティングに対する意識が低いのが残念でなりません。

マイクロソフトの例では、研究開発部門はほとんどリサーチ部門みたいな雰囲気になっています。
ユーザーを呼んでテストをやっていたり、市場分析にも熱心ですし、多くの時間をこういう調査活動に費やしています。
マーケティング部門との大きな違いは、彼らは3年から5年という中長期のスパンでニーズを見ていることです。
素材とアプリケーションでは自ずとスタンスも違いますし、研究開発にはこれがベストというスタイルはありません。
ただ現実にこういう会社もあります。
 
 
もうひとつの違う考え方もあります。
 
研究者は「技術バカ」で構わない。
自分が好きなことをやらせておく方が一番いいものができる、という考え方です。
これもひとつの方法としては真実だと思う。
特に素材系や、飛び抜けたモノを作る天才肌の人に、「目的」を押し付けるのはナンセンスです。
ただこの場合、技術を生み出す方(卵を産むニワトリ)以外に、それを使って料理する調理人(プロダクトマネージャー)が仕組みとしてあるという前提です。
それを作る人と、それを使う人・その良さを客観的に伝えられる人では、求められる資質が全く異なるからです。
ソニーで言えば、井深さんと盛田さんの関係ですね。
 
現実の企業を見ていると、研究開発には一生懸命お金を使っています。
しかしそれをどう使うか? その価値をどうお客様に伝えるか?という部分には、全くといっていいほど人やお金を使っていない会社が多い。
研究開発に何十人/予算数十億円とかかけるけど、プロモーションは若い営業1-2名/予算300万円といった笑えない例が山ほどあります。
 
特に先端技術系の会社ほど「技術さえよければ何とかなる」と思っている傾向が強い。
IT系、エレクトロニクス系企業は全般的に遅れています。
テクノロジーブッシュは、ひとえに20世紀的な価値観(単純なものづくり)を引きづった、企業文化そのものです。
 
 
成熟した時代では、優れたモノを創るのと同じ位、それを使ってどんなビジネスを作るかというセンスが求められる。
優秀な技術が世に出るかは、優れたビジネスモデルを創る力があるパートナーに出会えるか? に尽きると思います。
 
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