なぜ時流を読み切れないのか?

 
先日、東洋大学大学院で講義を持たせて頂いた時、「なぜ時流を読み切れないのか」というご質問を頂きました。
私はこういう分野の研究者ではありませんが、仕事の中で私なりに感じていることはあります。
少し時間を使ってまとめた回答なので、参考として掲載します。
 
「日本の会社はなぜ時流が読み切れないのか?」
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一番の原因は、社内のことにあまりに時間を費やしているためだと考えています。
 
どの会社に行っても、皆さん「忙しい」とおっしゃいます。
しかし仕事の中味を見てみると、社内調整や会議、上司との打ち合わせ、メール/文書作成などのデスクワークに費やしている時間がほとんどです。
部署によって違いはありますが、お客様や市場を知るためにほとんど時間を使っていないのには本当に驚きます。
 
他業界のことならまだしも、自分の業界のことも驚くほど知らない。
辛辣に言えば、驚くほど勉強もしていないです。
お客様のことを見たり考えたりしないでビジネスをやるのは、目隠しして鉄砲を打っているのと同じです。
そして大企業ほど外に出向く機会が少なくなってます。
肌感覚で分からなければ、時流など読めるはずがありません。
どんな業界でも、世界のCEOが最も多くの時間を使っているのは「顧客との直接対話」なんですけどね。
企業文化というか、基本的な考え方の部分でそういうものを重視していない、ということです。
しかしどんなに優秀であっても、判断材料になる情報が無ければ適切な対応はできないのは当然です。
裏返せば、経営幹部が「マーケティングの重要性が良く分かってない」ということだと思います。
 
これまで日本企業の多くがOperative(業務遂行)中心の仕事をしてきました。
学校でも「優秀なブルーカラー」を育てるための教育しかしてません。
労働力としては、これまで「均質」であることが重視されてきました。
そういう基準で優秀とされた人達が中心になれば、似たような考え方しか持たなくなってしまいます。
市場が伸びている時はいいのですが、時代の変わり目になると斬新な発想は出てこない。
決められた事を正確にこなしたり目先の改善(improve)はうまいのですが、
パラダイムシフトのような大きな変化に対して、思い切った改革(inovate)をするのは下手です。
 
最近は富裕層ではアメリカンスクールに通わせるという親御さんも増えてきましたが、
これは単に語学を取得するというより、テーマを与えて自分が調べて、考えて、発表するという
創造/自律型の教育システムの方に大きな魅力を感じているとよく聞きます。
最初から、自分の子供を優秀な"ブルーカラー"したいと進学させる親御さんはいないと思います。
 
あと、株主が四半期単位で成果を求めるという弊害も大きいと思います。
企業は、社員、株主、お客様、そしてパートナーのために存在しているもの。
しかし現実には、株主の力が突出して強くなっている印象があります。
 
経営システムという観点では、日本企業では欧米と比べてトップの権限が弱いということも原因と考えています。
欧米企業のCEOは重い経営責任を負わされている代わりに、絶対的な権限(=責任)と多額な報酬(=見返り)が与えられています。
日本企業は実質的には「合議制」であり、複数の経営者の話し合いで物事が決まる。
そのため、特定部門の利害を損なうことをものともしない、思い切った戦略はとり難いのもまた事実です。
 
このままだとハードでは赤字に近くてもネット広告や配信手数料で利益を狙う、ipodのようなビジネスモデルは日本のメーカーからは出てこない。
部門利害の代表者としてハード部門の役員が必ず猛反対します。
時流が読めたとしても、組織構造が原因でダイナミックに動けないということもあると思います。
 
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