ソフトバンクの死角

 
番号ポータビリティ(MNP)のスタートに合わせて、ソフトバンクが「予想外割」を発表、話題になっている。
 
「通話料0円」「メール代0円」と銘打った明快なメッセージング。
MNPスタートをピークに、メディアの期待感を煽る段階的リーク戦略。
孫さんが看板もった写真が、メディア載ることまで計算に入れたPR戦略。
などなど….。
 
マーケティング戦略だけを見れば、満点に近い出来だと思う。
MNPのスタートをただ漫然と迎えた(ようにしか見えない)ドコモやAUとは対照的な巧さだった。
 
でも今回のマーケティング戦略は、結果として「大失敗」だと思う。
それは、もっと本質的な部分にある問題点に目が行っていなかったことに原因がある。
 
お客さんはバカじゃない。
駅前や路上など、全国あらゆる所でソフトバンクが「タダですよ」という言葉に乗せられて、その後どうなったか?
「過去に半分騙された人達」は決して忘れてはいません。
 
「ブロードバンド」と言われて良く分からないまま契約し、無料のモデムをもらったものの….。
サービスの悪さや粗末なモデムが実質的に分割払いになっているなどに憤慨、後でプロバイダーを変えた人も多い。
あの時、「この会社のメッセージは、額面通りに受け止っちゃいけないんだな…」と、多くの人達が学習しています。
 
「ブロードバンド」が良く分からない人に力技で営業をかけて、確かにADSL市場でシャアは獲った。
でも企業イメージで失ったものも大きいことを忘れている気がします。
 
「通話代0円」「メール代0円」、「衝撃的な価格だ」と謡っても、お客さんが踊らなかったのはなぜか?
自分達の言葉を信用して人が動いてくれる、「徳」が無くなっているということです。
今回のキャンペーンは、「やっぱりこの会社のメッセージは信じちゃいけない」というネガティブな印象を強めただけ。
しかも今回は話題こそ集めたものの、実効面ではシェア上昇に繋がらなかったのですから、明らかに「失敗」です。
 
 
ソフトバンクは確かに戦略立案能力には優れているけど、「徳」という視点に欠けていると思う。
確かにビジネスで成功している企業。だから危うさを感じる。
 
「徳」なんて一見どうでも良さそうですがすごく大切なこと。
特に21世紀企業にとっては、お客様を惹き付け、そして優秀な人材を惹き付けるという意味で最も重要なイメージです。
 
「徳」に欠ければ、人々から決して尊敬が得られない。
どんなに事業を大きくしても「超一流」にはなれない、いつまでも「成り上がり」扱い。
何かあれば必要以上にバッシングもされます。
そういう会社に優れた人材が集まりますか?
野心の塊で、メリットが無くなれば一目散に逃げ出すような人ばかりになる。
そんな会社が永続できますか?
永続できないかもしれない会社を、お客様が全幅の信用を置くでしょうか?
 
 
孫さんが「日本の携帯電話はもっと安くなる」と総務省に食って掛かった時、そのメッセージに呼応してパブリックコメントを寄せた多くのユーザーがいた。
あの時ユーザーが期待したのは、「大衆の味方」として権力に挑戦する「ヒーロー」の姿です。
孫さんはあの時、「ユーザーの利益のため」(と思わせた)から、世間の支持を得られたんです。
 
でも今回の「0円キャンペーン」は、明らかに「自分の利益のため」のメッセージ。
だからユーザーに響かないし、必要以上に反感を買ってしまう。
せっかく作った「挑戦」イメージも、「結局は自分が儲けるためじゃないか?」とこれで台無しです。
 
誰が考えても、「条件付の定額制」と「0円」は違う。
どう言い訳しようが、お客様が最初に受け止める印象と違う=「誇張」は明らか。
(景表法とかで)違法かどうかはなんて問題ではなくて、「また騙された」とお客様に思われた時点でアウト。
今の時代、そういう商売はいつまでも続く訳ないでしょ…..。
 
お客さんが「良い会社だ」だと共感が得られるか、「信用できる会社だ」と思われるか。
大事なのはその点だけです。
 
今回は「ゴールドプラン」とか、ユーザーに分かりにくい複雑な料金体系にしてしまったことに根本的な問題があるように思う。
(何度か説明を読んだけど、未だに僕も分からない。携帯は高齢者も使うのに一体どう説明するんだろう?)
やっている人は一生懸命考えたのは十分分かるんですが……考え過ぎて本質を外しちゃったんじゃないか? と思います。
 
せっかく一所懸命に戦略練って、こんな逆効果になって、他人事ながら残念という感じです。
 
 
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